【活動報告】精神医療 第10号 特集 あらためて、「障害者権利条約」は何を求める? 座談会参加

2023年7月20日に刊行された『精神医療10号』の座談会企画<障害者権利条約―日本で実現したら具体的にどうなるのか…>に当会代表理事の山田悠平が登壇しました。昨年の国連障害者権利委員会からの総括所見から約1年が経とうとしています。これからのあり方をどのようにつくるべきか、総括所見を活かすこれからの運動のあり方を考える機会なれば幸いです。(山田)
 
 
 
 
障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)は2006年12月に国際連合(国連)総会で採択された。日本政府は2007年9月に条約に署名し、条約批准に向けた国内法の整備に取り掛かって、2014年1月に批准書を寄託し、2016年6月に国連・障害者の権利に関する委員会(委員会)に条約の批准後状況に関する報告書を提出した。しかし、その内容は殆どが現在の法律、施策を紹介・羅列するだけの貧弱で消極的なものであった。これに対する委員会の事前質問、日本政府の回答があった。一方でこの間、国内の関連諸団体からパラレルレポートが精力的に提出された。そして、日本に対する初回審査が2022年8月にスイス、ジュネーブで実施され、9月9日、委員会から、総括所見という形で日本政府への手厳しい勧告がなされた。
 この流れは、報道でも扱われ、当事者団体等の動きは活発である。特に、精神科の強制入院や特別支援教育の否定については、衝撃が大きかった。一方で、実務者の反応は冷ややかなように思える。
 この間、委員会が日本政府に求めて来たことの基本原則は、障害に対する「社会モデル」的視点の徹底と、「Nothing About Us Without Us」に代表される当事者参加の実現、そしてインクルーシブな社会を実現することである。しかし、それを私たちの実践に当てはめて具体的にイメージすることは容易ではない。現実の実務では、日々強制入院に直面し、診断書では医学モデルに基づく病名を付し、鑑定で能力の判定とそれによる差別化にお墨付きを与え、特別支援教育に関連する種々のサポートも行い、様々な場面でパターナリズムを駆使している。実務者の一部は、この動きに対し、まずは当惑を感じ、「社会モデル」「インクルーシブ」などの意味が理解できない、と感じるのではないか。他の一部は、こうした者と一緒に仕事をしていて普段からもやもやしていて、この動きに接し、何か変えられるのではないか、と思いつつ、何ができるのかわからないのではないか。思考停止でなく、議論の俎上に挙げるためには、この理念の実現について具体的にイメージし、それをもとに議論することではないかと考えた。
次号で、私たちは、この作業に取り組む。座談会では、思考停止している人にもわかりやすく論じてもらうと同時に今後の指針も示す。また、特集原稿は精神科医療・保健・福祉の枠にとどまらず、関連諸団体からも広く執筆していただく。
【目次】[巻頭言]太田順一郎/【巻頭言】中島直/【特集】[座談会]障害者権利条約―日本で実現したら具体的にどうなるのか…池原毅和+山田悠平+中島直+太田順一郎/[論文]佐藤久夫+八尋光秀+堀正嗣+石渡和実+川島聡+石田貴紀/【連載・コラム等】[視点]「滝山病院事件について」(仮)木村朋子/[コラム]原義和/[連載]バンダのバリエーション〈10〉塚本千秋/[リレー連載]精神科病院に風を吹かせる弁護士たち(第4回)松本成輔/[書評]『刑務所の精神科医』太田裕一/[紹介]『死にたいと言ってください―保健所こころの支援係―』駒井彩/【編集後記】大塚淳子
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