【活動報告】国連人権高等弁務官事務所への共同文書提出ー「障害者権利条約に沿った住宅と交通に関する調査」
一般社団法人精神障害当事者会ポルケは、精神社会的障害のある人による国際ネットワーク Transforming Communities for Inclusion(TCI)の一員として、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が行う「障害者権利条約に沿った住宅と交通」に関する調査に、共同提出文書の作成という形で協力しました。TCIに加盟するマレーシアや台湾、スリランカ、パキスタン、モルディブ、イギリス、インドなどの当事者団体と連携しました。
この共同提出の日本からのパートは、当会が実施した「精神障害・発達障害のある人の鉄道交通利用に伴う意識調査」(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団助成事業)の報告書を主な根拠としてまとめたものです。本調査は、2025年4月から精神障害者保健福祉手帳所持者への鉄道運賃割引制度が始まったこと、また2024年4月施行の改正障害者差別解消法により、民間事業者の「合理的配慮の提供」が法的義務となったことを背景に、公共交通をめぐる当事者の声を可視化することを目的に実施しました。
過去のバリアフリー政策や調査は、身体障害者や高齢者の「物理的なバリア」に焦点が当てられてきました。一方で、精神障害や発達障害のある人が、混雑・騒音・車内アナウンスや表示の情報量の多さ、不測のトラブルへの不安などから、鉄道利用そのものをあきらめてしまうケースは、統計上なかなか見えにくい状況に置かれてきました。
そこで当会は、当事者が自身の経験に基づいてオンラインで回答する形式をとり、2024年12月〜2025年1月にかけて全国44都道府県から357件の有効回答を集めました。調査では、「一人で利用するがいつも緊張している」「助けを求めたいが、周囲にどう声をかけてよいか分からず、結局ガマンしてしまう」「体調が不安定な時期は、外出や通院そのものを控えてしまう」といった、生の声が多数寄せられました。
TCIへの共同提出文書では、こうした調査結果をもとに、
・鉄道インフラが「地域で暮らし、学び、働き、参加するための前提」であること
・「見えにくい障害」に対する理解不足や心理社会的アクセシビリティの欠如が、移動の権利を実質的に制限していること
・運賃割引などの経済的支援に加え、情報提供、職員研修、安心して相談できる仕組みなど、多層的な合理的配慮が必要であること
を強調しました。
障害者権利条約の観点から見れば、これは第9条(施設及びサービス等の利用の容易さ)、第19条(地域社会での自立した生活及びインクルージョン)、第20条(個人の移動の自由)の問題でもあります。当会は、鉄道交通の実態調査を通じて得られた具体的なデータと当事者の声を、国際的な人権の議論につなげることで国内外でメッセージを発信していきたいと思います。
※TCI-Submission-on-Housing-and-Transportation(PDF)
※「精神障害・発達障害のある人の鉄道交通利用に伴う意識調査」報告書(PDF)


