【活動報告】防災庁新設にあたっての提言ー精神障害を包摂するインクルーシブ防災の制度化に向けて

今年予定されている防災庁の新設を契機に、精神障害のある人が災害から取り残されない「インクルーシブ防災」の制度化を訴えています。一般社団法人精神障害当事者会ポルケは、国立精神・神経医療研究センターとの調査協働などで得た知見をもとに、内閣官房防災庁設置準備室宛に、国家施策としての推進、地域包括ケアにおける防災強化、個別避難計画の加速、診療現場の標準手順、報酬加算、人材育成・情報基盤、そして当事者参画の制度化についての7つの施策を提言しました。


防災庁新設にあたっての提言
精神障害を包摂するインクルーシブ防災の制度化に向けて

一般社団法人精神障害当事者会ポルケは、精神障害のある人により構成される障害者団体です。近年、東日本大震災や熊本地震を経験した精神障害のある人や支援職らへのインタビュー調査を国立精神・神経医療研究センターと協働で実施するなど、防災に関する調査や啓発活動等に取り組みの推進し、共生社会づくりに向けた貢献を目指しています。

さて、令和7年6月に「防災庁設置準備アドバイザー会議報告書」でお取りまとめいただいたとおり、我が国は第3回国連防災世界会議で「仙台防災枠組」の採択を主導するなど、積極的に国際防災協力に取り組んできており、世界各国において自然災害の被害が増加していることを踏まえれば、災害大国である我が国の経験や教訓、技術・知見の共有が一層求められるところです。仙台防災枠組みにおいて、防災における障害者の包摂が初めて優先課題とされました。ユニバーサルデザインの原則等に沿った政策・計画・基準の企画立案及び実施のために、これらのプロセスに障害者が参加すること、年齢やジェンダーのみならず障害によって分類されたデータを収集すること、障害等をめぐる技術革新・技術開発への投資をすること、災害への対応・復興再建・復旧アプローチにおける障害者のエンパワーメントの重要性が盛り込まれています。
この推進を我が国がイニシアチブを発揮することは極めて重要だと考えております。他方で、精神障害のある人の統計数は、令和5年度障害者白書によると約614.8万にのぼっています。政府が推進をしている国土強靱化において、精神障害のある人の防災施策の推進は欠かせないものと考えられます。これに鑑みて、当会がこの間に取り組んできた調査や啓発活動の知見から下記の施策の推進を提言いたします。

1.偏見・差別のない共生社会の実現に資するインクルーシブ防災を国家施策として推進すること
「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」(令和6年12月27日)に依拠し、災害時にも分け隔てや排除が生じない制度設計を進める観点から、インクルーシブ防災を共生社会づくりの中核施策として明確に位置づけることは重要である。

2.精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける防災の位置づけを強化すること
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムは、市町村を中心に医療・福祉・住まい等を包括的に確保する理念である以上、災害により支援が途切れやすい服薬治療を含む医療や居住、相談等の福祉の支援に関する地域連携の手順を同システムの要件として明確化し、平時から継続支援を担保する必要がある。

3.精神障害の特性を踏まえた個別避難計画作成の推進を全国施策として加速すること
 災害対策基本法改正により市町村に避難行動要支援者ごとの個別避難計画作成が努力義務化され、内閣府の取組指針が制度改善と事前準備の徹底を求め、国土強靱化年次計画もモデル事業の知見等を活用した作成加速化と避難訓練等による実効性向上・事例共有を推進方針として掲げていることを踏まえ、精神障害は取組が後回しになりやすい現状を是正するため、実態調査の知見等に基づいて精神障害に関する情報理解や環境変化への脆弱性、治療・支援の継続等を反映した個別避難計画の作成支援と実効性の点検を全国的に進める必要がある。

4.診療の場で災害時を見据えた相談・援助を行う標準手順を確立すること
 精神科臨床で現場が参照できる実務的な手引きとして、エビデンスや当事者・支援者の経験知を踏まえつつ各機関の状況に応じて適用できる原則・手順・留意点を示すガイダンスを位置づけ、平時の外来・入院・訪問等の診療の中で災害時を想定した相談と援助(服薬・受療継続の備え、連絡手段の確保、避難先での安心確保と環境調整、支援者との情報共有、症状悪化時の対応確認等)を基本実践として普及させるため、チェックリストや記録様式、研修項目まで含めた整備を行う必要がある。
 
5.精神保健医療福祉分野における防災対応への報酬加算を導入すること
 精神保健医療福祉分野での防災対応を、制度上の裏付けがないまま現場裁量で埋め合わせている状況から転換し、平時から計画作成支援、連携会議、支援継続の準備に必要な人員と時間を確保して地域間格差を縮小するため、対象業務と算定要件、成果指標、第三者評価や情報公開等をセットにした報酬加算として制度化する必要がある。

6.精神障害領域の防災に関する全国的な人材育成・情報基盤を強化すること
 国土強靱化基本計画が、地域住民・コミュニティ・NPO等が担う自助・共助の取組を国土強靱化の土台と位置づけ、防災の教育・訓練・普及啓発や双方向のリスクコミュニケーションを継続的に推進する方針を示している一方で、精神障害の領域はスティグマや支援の見えにくさ等により防災の取組が後回しになりやすく、啓発や訓練参加の機会からこぼれやすい現状があることを踏まえ、当会を含む各地の精神障害当事者団体が行ってきたワークショップ、研修、教材作成、学校・地域への出前講座等の実践を結ぶネットワークの事務局機能・情報基盤・人材育成を公的に支援し、実践知の共有と横展開を可能にすることは極めて重要である。

7.防災政策の意思決定過程における精神障害者団体の参画を制度化すること
 国土強靱化基本計画が、DEI(多様性・公平性・包摂性)の観点も踏まえつつ地元企業・NPO等の多様な市民セクターの参画と双方向のコミュニケーションによる地域防災力の向上を掲げ、地域計画においても行政のみならず住民・企業等の関係者と連携した進捗管理と継続的な見直しを重視していることを踏まえ、精神障害の分野が防災の議論や施策設計から後回しにされがちな現状を是正するため、国・自治体の検討会や計画策定・評価の会議体へ精神障害者団体を正式メンバーとして参画させ、会議参加に必要な合理的配慮を整備したうえで、当事者参画を制度として位置づけることが不可欠である。

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