【情報提供】民法改正に伴い離婚事由に関する 精神障害の差別規定が廃止されました
精神障害当事者会ポルケは障害のある人の差別や偏見について重大な関心を持って取り組んでいます。障害を理由にした差別的な法規定の改定もそのひとつです。最近では、市民団体の調査により全国の地方議会の傍聴について、精神障害の禁止規定が残存している問題が報道をされていたところです。(2024年3月4日,毎日新聞社,精神障害理由に会議傍聴など禁止、全国で333件 条例見直されず)
さて、今回ご紹介するのは、民法 770 条1項4号における離婚事由として「回復の見込みのない強度の精神病」の規定についてです。メディアでは共同親権の扱いが注目をされていましたが、先の国会の民法改正の成立をうけて、2024 年 5 月 24日公布の法律第 33 号民法等の一部を改正する法律により、同規定が削除されました。
この規定については、1996年開催の法制審議会等において「精神障害者に対する差別感情の助長のおそれがある」と指摘されていました。また、2022年の国連障害者権利条約の総括所見においてもパラグラフ50で「委員会は、以下を締約国に勧告する。 (a) 精神障害を離婚事由とする規定の民法第770条第1項4号を含め、障害者に対して差別的な条項を廃止すること」との勧告が出されていました。
この勧告の背景には、日本障害フォーラムが国連障害者権利委員会に提出したパラレルレポートでの指摘がありました。なお、2022年の障害者権利条約の対日審査では以下のようなやり取りが障害者権利委員会と政府で展開されていました。
▼ガミオ委員
(障害者権利条約)第 23 条に関して、障害のある人、特に知的又は精神障害のある者の婚姻率は一般の婚姻率より低いです。これは、現行の民法第 770 条、特に第1項第4号に、障害が離婚の条件の1つとなり得ると記載されており、また障害のある親は、離婚の際、その障害のため、障害のない親よりも子供の親権を失う可能性が非常に高いとも記載されていることが理由かもしれません。また、このことは、障害のある親は離婚後、自分の子と面会することすらできないかもしれないことも意味し得ます。政府は、この問題に対処するためにどのようなことを想定していますか。
▼法務省
法務省よりお答えしたいと思います。ガミオ議員が指摘、23 条に関するものになります。ガミオ委員がご指摘された民法 770 条1項4号に関しては、LOI’Sで回答しました通り精神病に罹患している者を差別する意味はないと理解しております。その上で、同じ条文 770 条第2項において裁判所は離婚の請求を棄却することができるとされております。
ガミオ議員は障害を持つ人は離婚しやすいかと質問されました。裁判実務においては、配偶者が精神病であることを理由に離婚が請求された場合には、精神病に罹患しているものその後の療養及び生活について、具体的な手当がされている場合に限って離婚を認めるという運用がされております。このように、精神病に罹患した者に対する配慮はされております。従って、民法の規定に関しまして、離婚当事者双方の利益に配慮したものでありまして、障害者を差別した規定であるというようなご指摘は当たらず、障害を持つ人が離婚しやすいというご指摘も当たらないと理解しております。以上です。
▼障害者権利委員 アマリア・ガミオ・リオス氏(メキシコ)
対日審査を傍聴して時の政府の回答には首を傾げていたことを大いに覚えています。日本の市民社会からの指摘を受けて、障害権利委員会が問題を明らかにし、精神障害の差別規定の廃止につながったことを私たちは喜びたいと思います。この問題に限らず、障害権利条約の実施の観点から、非自発入院や虐待防止の問題、一般科医療と分けられた制度設計など精神科医療のシステムについても様々な勧告が示されています。引き続き、関係団体と連帯をはかり、障害者権利条約の実施を梃に障害者の権利と尊厳が守られる社会づくりに取り組んでまいります。(山田)