【活動報告】精神科研修ノート改訂第3版に寄稿
精神科医を志す専攻医・若手医師を対象に編集された「精神科研修ノート改訂第3版」(診断と治療社)に当会代表理事の山田が寄稿しました。職域としては医師向けの書籍ですが、医師以外の当事者を含む多様な立場の人が関わるユニークな取り組みです。
【目次】
第1章 精神科研修へのアドバイス
A 精神科医を志す専攻医・研修医・学生の皆さんへ
1 コ・プロダクションの時代の専門職 笠井清登
2 精神科医を目指すあなたへ:若手精神科医からのメッセージ 高橋優輔
3 若手精神科医へのメッセージ:人生行動科学としての精神医学 福田正人
4 若手精神科医へのメッセージ:精神医学のサブジェクトマター 村井俊哉
5 若手精神科医へのメッセージ:文化精神医学(臨床人類学)への誘い 江口重幸
6 若手精神科医へのメッセージ:「私たちの精神疾患」で伝えたかったこと 鈴木みずめ
7 若手精神科医へのメッセージ:これからのだいじょうぶな社会を目指して―当事者から 山田悠平
8 若手精神科医へのメッセージ:ピアサポートの立場から 佐々木理恵,宮本有紀
9 若手精神科医へのメッセージ:当事者研究とコ・プロダクションの視点 熊谷晋一郎
B 基本的素養
1 社会モデル・人権モデルの時代の心の臨床 熊倉陽介
2 トラウマインフォームドケア 亀岡智美
3 精神医学・医療におけるダイバーシティとインクルージョン 里村嘉弘
4 アンチスティグマとPPI
1)スティグマ 山口創生
2)患者・市民参画(PPI) 山口創生
5 当たり前に使われる言葉に生きづらさの原因はないのか? 大石 智
C 研修の概要
1 専門研修プログラムの選びかた 榊原英輔
2 専攻医のライフスタイル 田尻智哉
3 精神保健指定医取得・専門医取得に向けて 水谷真志
4 総合病院精神科での研修の重要性 竹内 崇
D サブスペシャルティ
1 児童精神医学 公家里依
2 コンサルテーション・リエゾン精神医学 和田 健
3 老年精神医学 粟田主一
4 司法精神医学 和田 央
5 アディクション 成瀬暢也
6 てんかん 谷口 豪
7 サイコオンコロジー 明智龍男
8 災害精神医療 大塚耕太郎
9 精神科救急 今井淳司
E 勉強のしかた
1 研修の到達目標 榊原英輔
2 教科書,参考書の選びかた 宇野晃人,森田 進
3 カンファレンスの聞きかた,発表のしかた 平山貴敏
4 精神科医にとって研究とは何か 加藤忠史
5 臨床倫理と研究倫理 井藤佳恵
6 大学院・医学博士・海外留学 藤川慎也
7 学会での症例報告の準備と発表のしかた 田宗秀隆
8 医学論文の読みかた・書きかた・英文 山名隼人
9 仕事と子育ての両立 布施ひと美
F 医療現場でのコミュニケーション
1 医療コミュニケーションの基本 藤山直樹
2 精神疾患とコミュニケーション 田中伸一郎
3 家族とのコミュニケーション 市橋香代
4 リエゾン場面でのコミュニケーション 加藤 温
5 救急医療でのコミュニケーション 日野耕介
6 移植医療における精神科の役割 岡田剛史
7 精神科における臨床心理士の役割 津川律子
8 精神科における精神保健福祉士の役割と連携 向谷地生良
9 精神科における看護師の役割 宮本有紀
10 精神科作業療法における作業療法士の役割 早坂友成
11 精神科における薬剤師の役割 吉尾 隆
12 精神科におけるピアサポートワーカーの役割 石田貴紀
13 学校との連携 渡辺慶一郎
14 職場との連携 川上慎太郎
15 地域の支援者との連携 長門大介
第2章 精神科研修でマスターすべきこと
A 精神疾患の疫学
■ 精神疾患の疫学 西 大輔
B 脳科学からのアプローチ
■ 脳のはたらき 高橋英彦
C 面接・評価方法
1 面接の技法・マナー 青木省三
2 カルテの書きかた 上野修一
3 予診のとりかた 須田史朗
4 精神科診断学入門 古茶大樹
5 身体疾患のスクリーニング 尾久守侑
6 症状評価 田近亜蘭
7 入院適応の決定 白鳥裕貴
8 行動制限 和田 央
9 入院治療のリスク管理(転倒,血栓,自殺・自傷行為,暴力行為) 杉田尚子
10 小児の診かた 滝川一廣
D 検査法
1 神経心理学的検査 村松太郎
2 心理検査① ―投映法― 中村紀子
3 心理検査② ―質問紙法― 岡村由美子
4 精神疾患のための臨床脳波学 福田正人
5 精神科で必要なCT/MRIの見かた 森田 進
6 精神科で必要な核医学検査 髙野晴成
7 光トポグラフィー 里村嘉弘
E 治療法
1 生活・人生と医療 福田正人
2 薬物療法
1)総 論 明智龍男
2)睡眠薬・抗不安薬 澤井大和
3)抗うつ薬 岡田 剛
4)抗精神病薬 沼田周助
5)抗てんかん発作薬 藤岡真生
6)気分安定薬 寺尾 岳
7)小児における向精神薬の使用 濱本 優
8)身体科入院中の患者における向精神薬使用の留意点 近藤伸介
9)高齢者における向精神薬の使用 水谷真志
10)向精神薬と妊娠 安藤俊太郎
11)向精神薬のリスク 神出誠一郎
12)薬物療法の適正化 市橋香代
13)漢方薬の使いかた 徳田裕志
3 精神療法
1)支持的精神療法 青木省三
2)精神分析的精神療法 池田暁史
3)認知行動療法 日吉史一,久我弘典
4)マインドフルネス認知療法 佐渡充洋
4 電気けいれん療法(ECT) 神出誠一郎
5 精神科リハビリテーション 森田健太郎
6 うつ病患者のリカバリー支援 竹林 実
7 心理教育-実感と納得に向けた病気と治療の伝えかた 福田正人
第3章 症候からみる状態像
A 症候からみる状態像
1 精神症候の診かた 植野仙経
2 意 識 平田りさ,村井俊哉
3 記 憶 上田敬太
4 注 意 植野 司
5 知 能 義村さや香
6 知 覚 三嶋 亮
7 思 考 高橋 司,村井俊哉
8 感 情 大杉文宏,村井俊哉
9 意欲・動機 藤原広臨
10 自己意識と同一性 山村啓眞
第4章 疾患ごとの診断と治療
A 統合失調症
1 統合失調症 福田正人
2 統合失調感情症 吉原雄二郎
3 妄想症 針間博彦
4 カタトニア 諏訪太朗
B 気分症
1 うつ病 中川敦夫
2 身体疾患とうつ病 石田琢人
3 認知症とうつ病 布村明彦
4 双極症 坂元 薫
C 不安症
1 社交不安症 大坪天平
2 パニック症 宗 未来
3 全般不安症 田島 治
4 強迫症 阿部能成,中前 貴
D ストレス関連症
1 心的外傷後ストレス症 堀 弘明,金 吉晴
2 適応反応症 小口芳世
E 解離症
■ 解離症群 是木明宏
F 身体症状症/作為症
1 身体症状症 山田和男
2 作為症 太田敏男
G パーソナリティ症
1 パーソナリティ症群 白波瀬丈一郎
2 ボーダーラインパーソナリティ症(ボーダーラインパターン) 平島奈津子
H 摂食症
1 神経性やせ症 西園マーハ文
2 神経性過食症 林 公輔
I 睡眠・覚醒障害
1 不眠症 鈴木正泰
2 睡眠時随伴症(レム睡眠行動障害,レストレスレッグス症候群) 普天間国博,高江洲義和
3 睡眠時無呼吸症候群 中島 亨
4 ナルコレプシー 山寺 亘
J 物質使用症・嗜癖症
1 薬物依存
1)医療で用いる薬物 宮里勝政
2)不法薬物 宮里勝政
2 アルコール使用症 木村 充
3 嗜癖行動症 樋口 進
K 神経認知障害
1 Alzheimer病 穴水幸子
2 血管性認知症 山縣 文
3 前頭側頭葉変性症 文 鐘玉
4 Lewy小体型認知症 田渕 肇
5 高次脳機能障害 船山道隆
6 せん妄 竹内啓善
7 てんかん 尾久守侑
8 二次性精神または行動の症候群 八田耕太郎
9 薬剤による精神症状 谷 英明,平野仁一
10 神経疾患と精神症状 櫻井 準
L 幼・小児,青年期に発症する障害
1 知的発達症 立花良之
2 自閉スペクトラム症 公家里依
3 注意欠如多動症 上月 遥
4 限局性学習症 山田晶子
5 チック症群 金生由紀子
M 性別違和
■ 性別違和 森井智視
第5章 知っておくべき法律・制度,書類の書きかた
A 知っておくべき法律・制度,書類の書きかた
1 守秘義務 五十嵐禎人
2 精神保健福祉法 藤井千代
3 知的障害者福祉法 梶 奈美子
4 発達障害者支援法 西村優紀美
5 障害者差別解消法 切原賢治
6 障害者総合支援法と地域での暮らしを支える資源とサービス 森田健太郎
7 障害年金制度 神谷瑞菜
8 介護保険制度 古田 光
9 成年後見制度 岡村 毅
10 心神喪失者等医療観察法 久保彩子
11 物質使用症関連の法律 武藤岳夫
12 精神障害者に係る欠格事項(運転免許を中心として) 伊藤文晃
13 保険診療,診療報酬 河上真人
14 精神科における診断書 谷井久志
15 紹介状とその返事 管 心
16 処方箋 多田真理子
17 入院診療計画書,説明・同意書 三井信幸
18 退院サマリー 大坪 建,岩永英之
19 英文紹介状の書きかた 井上隆志
付録
■ 略語一覧 高橋優輔,田尻智哉
索引
和文索引
欧文索引
◆Column
医師からの後押し~ピアサポートへの扉~
専攻医コラム:精神医学の多様性と沈黙
医療者のトラウマ反応に注意
スティグマは誰にでもある
当事者と一緒に作成した満足度アンケート
望ましくない言葉に出会ったときにできること
大学医局への入局のススメ
「成長曲線は横一線」
4D
エイジズム
サイコオンコロジーの魅力
治療反応性のない患者などいない
抄読会の勧め
オンライン発表とオンサイト発表の違い
私の経験から
患者とみなされた人(identified patient:IP)という考えかた
アルコール性肝硬変に対する肝移植
スクリーニング用の自己記入式尺度
「治癒」から「リカバリー」へ
チームの一員として
「ピアサポートの精神」と「世界人権宣言」
学校との連携
診療上のバランス感覚
社会脳
臨床医だからできる“逆”橋渡し研究のすすめ
大切なことが話される時
治療のキモ
診断は謙虚に,臨機応変に
検査をするか否か
精神医学における診断と治療
脳波と心電図の比較
核医学検査の安全性について
不眠に用いる漢方薬
抗精神病薬処方時のポイント
抗てんかん薬から抗てんかん発作薬へ
リチウム中毒
リスデキサンフェタミンと「覚醒剤」
せん妄に対するハロペリドール点滴静注
多職種連携における医師の専門性
定期的な身体管理は重要
健康教育の重要性
“どん底”療法
“マインドフルネス=瞑想?”
精神科リハビリテーションにおける個別の支援
デイホスピタルのメンバーより
ともに教え学ぶ心理教育
患者や家族の訴えを検証することの重要性
患者さんとのおしゃべりの中で記憶障害を探る
臨床場面における注意障害の評価と鑑別
discrepancy
幻覚妄想と医師の微笑み
居場所と役割と仲間が支える回復と成長
19世紀~20世紀のカタトニア
DSMの使いかた
身体疾患をもつ患者のうつ病診断に潜むミスコミュニケーション
前頭側頭型認知症とうつ病
双極症の治療者の使命とは
逃げるだけじゃだめ! 苦痛の回避は,苦悩の温床
飲む認知行動療法:ジャマイカ作用に注意!
楽観バイアスをもたせる指導が有効!
PTSD概念・診断の変遷
PTSDと医療
適応反応症に対する雑感
解離症への興味から
カルテと処方箋から,身体症状症の治療に精通している医師かどうかが見抜ける
BPD患者の家族に対する対応
パーソナリティ症と「うつ病」を自称する若者たち
「やせようと思ってやっている」行動なのか?
入院後に体重が増えない状況
江戸時代の症例
私たちの仕事はレッテルを貼ることではない
併存症
睡眠不足症候群
薬物依存関連用語
嗜好品依存
危険ドラッグ,脱法ドラッグ,違法ドラッグ
精神症症状について
認知症の臨床現場から
ヒドロキシジン(アタラックスR-P)について
言葉を発しない興奮に注意!
研修の心得
本人への診断の説明,告知
不注意=ADHD?
限局性学習症の診察に関連する用語や略称について
性別違和と精神科医のアイデンティティ
医師が秘密漏示罪で刑事責任を問われた事例-“僕はパパを殺すことに決めた”事件-
大学などの高等教育機関での障害者支援
医者がすべての情報をもっているとは限らない
社会の潮流からみた成年後見制度
説明責任と責任分散
刑罰と治療,どちらが大事?
新規個別指導
タイムカプセル
Hellaのオフィス -ファミリーセラピースーパービジョン-
【序文】
改訂第3版への編集の序
改訂第3版の発刊を前に,精神科を様々な立場,段階,状況で研修しておられる皆さんお一人お一人を想像しながら序文を書いています.私という精神科専門職のケースレポートを通じて,本書に込められたメッセージを感じ取っていただけると嬉しいです.
初版は,ちょうど東日本大震災が起きた3か月後に出版されていることに今更ながら気づきました.ふだんの生活や仕事で想いを馳せることのなかった遠い沿岸部の町にいる市民の方々の困難や苦悩が他人事ではないとまず行動が先に出て,その後実感が湧いてきた頃でした.初版発行の前夜は,2008年のNature誌に「Mental wealth of nations」,2010年の同誌新春号に「A decade for psychiatric disorders」といったメンタルヘルスを唱導する記事が立て続けに出され,日本における状況をどうにか変えたいと思っていた頃でした.意識していませんでしたが「である調」の堅苦しい文体をはじめ,若気の至り(怒り)が序文に出てしまい,なんだか外国の威を借りて翻訳した勧告書みたいで恥ずかしいです.私は何を仮想の敵としていたのでしょうか.共同編集者の村井俊哉さんが2010年頃から多元主義を日本のメンタルヘルス専門職に教えてくださりはじめていたにもかかわらず,「生物-心理-社会モデル」の易・折衷主義性にまるで無自覚でした.
改訂第2版への序文はそれに比べると「ですます調」でちょっと穏やかですね.もしかすると,第1版の序文で意気投合してくださった方もいれば,ちょっと暑(息)苦しく感じ,せっかく本屋で手に取ってくださったのに,閉じて書棚に戻してしまった方もいらっしゃったのではないかと今になって思います.これまで教科書の執筆者として認識されてこなかった,「体験の専門家」(障害のある当事者とその関係者という意味を含みますがより広い意味です)の方々のお名前を興奮気味にあげさせていただいていますね.東日本大震災以降,私が診察室の外に出て,いろいろな方々とお目にかかっていった行動を反映しています.価値(観)と行動,人生と回復ということについて考えを深めるようになった頃です.
第3版には,最近一緒に「研究」や「運動」をさせていただくようになった体験の専門家の方々から学んだことをより意識的に反映させています.第2版と第3版の間には,世界中の誰もが予測だにしていなかった新型コロナウイルスのパンデミックが起きました.それから5年近くが過ぎ,社会は平時に戻ったかのようですが,私自身の世界観はもしこのパンデミックがなかったと仮定した場合と比べて確実に変化したように感じています.その変化を十分に言語化できていないのですが,東日本大震災の前と後との違いに類似点があるような気がしています.おそらくそう認識している,いないによらず,すべての個々人のこころを変え,それにより構成される社会をも有意に変化させたものと思います.私たちはより一層,社会モデルとコ・プロダクションの時代の精神医学ということを考えていかねばなりません.こうした課題意識を共有いただければ嬉しいです.
以上,第1版,第2版の編集の序をメタ解析するような視点で第3版への序を書いてみました.もし次の機会を10年(一昔)後に与えられるとしたら,どんな教科書が当たり前になっているだろうかというイメージを割と明確に想い描いています.しかし現時点では医学出版社から出していただけないと躊躇されるかもしれませんし,また思いがけない個人や社会の変化もあると思うので,こころのタイムカプセルの中にしまい,個人と世界の相互作用・相互形成の履歴としての行動を積み重ねていきます.
2024年11月行動吉日
編集者を代表して
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
教授 笠井清登