【活動報告】日韓精神障害当事者交流事業2025
2025年10月29日ー31日、一般社団法人精神障害当事者会ポルケは、「日韓精神障害当事者交流事業2025」に取り組みました。本事業は、国連障害者権利条約の理念を共通の基盤とし、日韓両国の精神障害当事者団体が連携しながら、権利保障と地域生活の実現を目指して対話と協力を重ねてきました。2019年の第1回開催以来、今回で4年目、そして初の日本開催となりました。韓国からは、韓国精神障害者連合会、松坡精神障害者同僚支援センターなどのメンバー6名が来日。松坡のシン代表らとこれまでの交流の経緯や共同宣言の意義を振り返りながら、国境を越えた仲間としての再会を喜び合いました。
30日に開催した大田区での学習交流企画の開会式では、共催の韓国DPIの李会長からのビデオメッセージのほか、DPI日本会議の白井事務局次長、名義後援団体から全国精神保健福祉会連合会の小幡事務局長、これまでの交流事業に参画いただいた国立精神神経医療研究センターの山口室長、川口研究員からご挨拶をそれぞれいただきました。また、当会が加盟するTCI‐Globalから届いた#WhatWENeedキャンペーンの紹介動画をご案内させていただきました。
今回の事業では、日韓それぞれの当事者活動の取り組みの紹介を通じた学習交流を主として行いました。
韓国サイドからは、韓国精神障害者連合会が取り組んでいる精神障害者運動の近況や、韓国精神障害者自立生活センターの地域活動や松坡ピアサポートセンターの取り組みなどについて話題提供をしてもらいました。2020年頃からの法制化に伴う韓国の精神障害者の地域支援の取り組みの広がりにおける当事者主体の実践や、精神科医療における虐待問題の告発において、国家人権委員会への告発を含む法廷闘争など、力強いアクションの様々に勇気づけられました。日本の参加者からは、政策的な要求の大切さやデモ活動のような社会への働きかけの必要性についてのコメントが聞かれました。
日本からは、懇意にしている関係団体や個人の方々から、特にピアサポートに関わる実践を中心に、以下の皆さまにご登壇いただきました。
・桐原尚之さん(全国「精神病」者集団)
日本の精神障害当事者運動の歴史を振り返り、1974年の全国「精神病」者集団結成から現在に至るまでの運動の歩みを紹介。「次の法改正を見据え、非自発的入院廃止などの展望についてお話をしてもらいました。
・佐々木理恵さん(東京大学 医学系研究科 医学のダイバーシティ教育研究センター)
東京大学で行われているピアサポートワーカープログラムの内容を紹介し、1年間の研修を通じたを実践についての報告をしてもらいました。韓国では法的研修の実装が控えていることもあり、大きな関心が寄せられました。
・堀合悠一郎さん(NPO法人さざなみ会・神奈川精神医療人権センター)
神奈川県精神医療人権センター(KP)のピアスタッフが中心となって行う電話相談や病院見学活動などを紹介してもらいました。立場を超えた対話を続けることで精神医療の風通しを良くしていきたい」との言葉に韓国のメンバーからも大きな頷きがありました。
・水月琉凪さん(生きづらい子育てピアの会東京)
精神障害や発達障害のある親による子育て支援の取り組みを紹介。「家族を責めるのではなく、家族まるごと支える地域支援を」と訴え、当事者が地域の力になる可能性についても触れてもらいました。精神障害をの親を持つ韓国のメンバーからは、子育て支援について韓国でも広げていくことが重要との旨のコメントがありました。
ほかには、連携協働の事例のご紹介として、曹洞宗人権擁護推進本部から本多清寛さんに障害理解の研修の実践などについて話題提供がありました。
また、当会からは役員の加藤晴正が、2025年に実施したデジタル・ストーリーテリング(DST)ワークショップの実践報告と制作作品の上映を行いました。語りを通じた映像制作のプロセスや、グループワークを通した当事者のエンパワーメントの意義、そして言葉を超えた交流の可能性についてのメッセージが共有され、会場全体が温かい共感に包まれました。
一日を通じて、日韓双方の多様な経験と知見に触れ、日頃の活動や実践を相対化しながら、今後に取り入れていくべき視点や課題をそれぞれが見出す、貴重な機会となりました。
今回の事業を通じて、「日韓精神障害当事者共同宣言(2024)」の履行に向け、以下のアクションを実施していくことを確認しました。
① 交流事業の深化
関係団体の垣根を越えた有志による継続的な交流事業を進めていきます。その一環として、両国の当事者の経験や知見を蓄積・共有するための共通プラットフォームの設立を目指します。日本側からは、その方法の一つとしてデジタル・ストーリーテリング(DST)の手法を提案し、韓国でのワークショップ開催を視野に入れています。
② 精神科医療における人権課題の共有と政策提言
精神科医療における人権課題について、特に医療保護入院制度の廃止に向けた議論を中心に、両国の調査研究や実践の成果を継続的に共有し、議論を深めていきます。その際、当事者のみならず、関係する専門家や支援者を含む日韓ネットワークの拡充を図ります。また、日本側からは、韓国国家人権委員会による精神科病院での人権救済の取り組みに注目し、それらの具体的な事例をもとに、日韓合同での院内集会・シンポジウムの開催を計画しています。精神障害に関する人権課題を可視化し、政策提言へと結びつけていくための実践的な取り組みを目指します。
③様々なピアサポートの取り組みの共有
日韓それぞれの実践を継続的に共有し、コミュニティベースの支援の普及や、当事者の相互支援を中心とした地域社会のネットワーク形成を進めていきます。
各地域で培われたピアサポートの手法や哲学を持ち寄ることで、入院から地域生活への移行支援、子育てや就労支援、防災啓発など、多様な生活領域において当事者の「経験知」が活かされる基盤を整えていきます。
なお、本事業の実施にあたっては、日韓双方の登壇者の皆さまをはじめ、ボランティア・寄付者の方々、そして通訳としてご協力くださった東京つくし会理事であり当会ネットワーク会員の寺澤元一さん、茨城キリスト教大学の呉恩惠さんをはじめ、多くの皆さまにご支援をいただきました。
また、以下の関係団体より名義後援を賜りました。
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会、全国「精神病」者集団、全国精神障害者団体連合会、公益社団法人日本精神保健福祉士協会、一般社団法人日本精神科看護協会、NPO法人日本医療政策機構、NPO法人精神科作業療法協会。
ご協力くださったすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。今後の取り組みにつきましても、引き続きご支援・ご協力のほどよろしくお願いいたします。









