【活動報告】2023年度東京都要望書についての回答
精神障害当事者会ポルケでは、行政や議会への提言および要望活動を定期的に実施しています。各種の活動や寄せられた相談の事例などから論点整理をしたうえで行っています。先日、2023年度に提出した東京都宛ての要望書について、下記の通り文書回答があったのでご報告いたします。今後のアクションについて、新たに取り入れるべきトピックスなどがあればご意見をお寄せいただければと思います。すべてのご意見を採用することは現実的に難しい場合もあるかもしれませんが、制度や仕組みの問題として解決するべき事項は、当事者団体として積極的に課題提起していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
1.医療機関への監視強化について
先般、孝山会滝山病院において入院患者を日常的に虐待していたことが指摘されている深刻な不祥事が明らかになりました。精神科医療機関への信頼は私たちの暮らしを守るためとても大切なことです。この事件の再発防止の観点から、精神科病院での虐待や不適切な処遇の防止のために以下の点を行っていただきますようお願い申し上げます。
①東京都精神保健福祉審議会について (福祉局)
国の通知によると、地方精神保健福祉審議会は精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、定期的に開催するのみならず、精神病院の不祥事があった場合には、積極的にこれを審議すること及び精神科病院に対する効果的な指導監督等のあり方を検討するとされている。ついては、可及的速やかに東京都精神保健福祉審議会において審議する必要性があると考える。実施にあたっては、当事者団体及び法律家等で構成される第三者調査組織の設置及び調査の実施、再発防止に向けた効果的な指導監督のあり方、そして、入院患者の転院及び退院に向けた聞き取りの方策を審議事項に挙げてください。
<回 答>
東京都地方精神保健福祉審議会において、精神科病院における患者への虐待の未然防止、 早期発見、虐待が発生した場合の速やかな検証や再発防止に向けた取組や、 精神科病院における虐待防止・人権擁護に向けた取組等について審議しています。
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部精神保健医療課
②指導監督の強化について(福祉局)
「精神科医療機関における虐待が疑われる事案に対する指導監督について(抄)(令和5年2月17日付精神障害保健課事務連絡)」に鑑みて、必要な情報収集や実地指導等の適切な指導を強化のほどお願いいたします。特に、入院患者に対する虐待が強く疑われる緊急性が高い場合等については、予告期間なしに対象の精神科病院に対し実地指導を実施するなど、必要な措置を行うようにしてください。
<回 答>
都は、精神科病院の管理運営や人権に配慮した患者の処遇等について適正な運用が図られるよう、精神保健福祉法に基づく立入検査 (実地指導)を毎年実施しています。
これらの定期の立入検査に加え、入院患者に対する虐待が強く疑われ緊急性が高い場合は、事前予告なく臨時の立入検査を実施しています。
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部精神保健医療課
③精神保健福祉法改正を踏まえた虐待防止の取り組み(福祉局)
令和6年施行の精神保健福祉法改正に基づき、精神科病院での虐待に係る通報義務化、通報者保護の徹底、虐待防止研修の実施について、都内の精神科病院への通知をはかるなどしてください。運用状況についてはモニターを徹底するようお願いします。また、再発防止の観点を考慮して虐待類型ごとの統計把握およびプライバシー配慮をおこなったうえでなるべく詳細に公表を行えるように、東京都としてあり方の検討を促進してください。
<回 答>
都は、令和6年4月からの改正精神保健福祉法の施行に向け、 虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した方や虐待を受けた精神障害者、その家族からの通報や相談を受ける窓口の設置に向けた準備を進めています。なお、改正精神保健福祉法では、精神科病院における虐待の状況等を公表する旨定められています。
<R6年度予算措置額>
○精神科病院における虐待防止の推進 43,049千円
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部精神保健医療課
④入院者訪問支援事業について (福祉局)
令和6年施行の精神保健福祉法改正に基づき、入院者訪問支援事業について、都道府県の任意事業であることは承知しているが、東京都として取り組むようにしてください。当該内容の研修実施にあたっては、同事業の実施の推進を行っている認定 NPO 法人大阪精神医療人権センターや全国「精神病」者集団などの関連団体から講師を招くなど、実践的な研修となるようお願いします。また、訪問支援員の選任にあたっては、当会の構成員を含めて、ピアサポートの活用を積極的にしていただくようお願いします。
<回 答>
都は、令和6年度から、区市町村長同意による医療保護入院者等の生活に関する一般的な相談に応じ、本人の体験や気持ちを丁寧に聴くとともに、必要な情報提供を行うための訪問支援員を養成し、本人の求めに応じ派遣する取組を実施します。
<R6年度予算措置額>
○入院者訪問支援事業 26.352千円
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部精神保健医療課
2.精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築推進について(福祉局)
東京都においても精神障害にも対応した地域包括ケアシステム、いわゆる「にも包括」の構築および推進に係る取り組みが行われています。しかし、市区町村での取り組みについて、地域住民から可視化がしにくい状況や担当領域があまりに広範のことから取り組みの一致点が築きにくいことや担当所管の庶務の負担が過重となっていることなどの課題が散見されています。これらの「にも包括」の構築および推進についての課題を早期に解消するよう東京都と市区町村が一体となって取り組むようお願いします。 ついては、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築支援事業広域アドバイザーの活用や協議の場の連絡協議会の開催などを行うようお願いします。
<回 答>
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムでは、精神障害の有無や程度に関わらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう重層的連携による支援体制を構築することとされ、精神障害者や 精神保健に課題を抱える住民などの日常生活圏域を基本とし区市町村で進めています。
都では、都立(総合)精神保健福祉センターや、都が実施する精神障害者地域移行体制整備支援事業 における精神障害者地域移行促進事業の委託事業者(6か所の相談支援事業所等)が、区市町村の協議の場に参加し必要な区市町村支援に取り組んでおります。
<R6年度予算措置額>
○精神障害者地域移行体制整備支援事業103,728千円
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部精神保健医療課
3.移動支援事業(地域生活支援事業)について(福祉局)
精神障害者の地域での安定した暮らしを送るためには、必要な福祉サービスを利用した生活スタイルの普及が必要です。そのひとつに移動支援 (ガイドヘルパー)という制度があります。社会参加や余暇支援があることで、生活リズムの安定に寄与するなどの声があります。精神障害のある人へのガイドへルプは、「東京都知的障害者移動支援従業者養成研修」の修了が資格要件のひとつとなっています。しかし、当該研修において精神障害の理解といった項目が規定されていません。これまでに活動拠点の大田区での従事者研修の講師に当会メンバーが参画する機会を得たが、精神障害についても研修スキームにしっかりと規定することが必要です。さらに、研修の枠組みにおいて障害当事者との対話の場を設けるなどのカリキュラム改定も必要だと考えます。養成研修のプログラムについては、東京都の専権事項となっているが、区市町村での研修が精神障害者にも対応した実りあるものになるよう運用改定等必要な措置を図るようお願いします。
<回 答>
東京都知的障害者移動支援従業者養成研修課程については、知的障害者移動支援従業者として従事する者又は従事することを希望する者を対象としているため、現行のカリキュラムとなっております。今後も適切な研修が実施されるよう、区市町村における地域支援生活事業の動向も踏まえ、引き続き民間の事業者等が実施する研修事業の指定・指導事務を進めて参ります。
<所管局部課名>福祉局生活福祉部地域福祉課
4.精神障害の理解啓発の促進について(福祉局、総務局)
精神障害についての根深い偏見や差別の問題の解消は、精神障害のある人の地域生活において不可欠です。 精神疾患が五大疾病として扱われて久しいが、疾病予防の取り組みがややもすると、現に精神障害のある人への偏見や差別の問題を助長しないか深刻に憂慮しています。当会はメンタルヘルスの尊重と権利や尊厳をまもるための理解啓発の両輪の必要性を訴えてきました。大田区地域力応援基金の助成制度を活用して、当事者が期待するアンチスティグマの考え方と実践例を冊子として発刊しています。なお、令和6年障害者差別解消法施行では、民間事業者への合理的配慮提供義務化などが行われます。都民への正しい障害理解がますますと求められます。ついては、今後の東京都職員向けの研修等での多様な当事者参画をはじめ、ブラッシュアップが必要だと考えます。
<回 答>
改正障害者差別解消法が令和6年4月に施行され、合理的配慮が民間事業者にも義務化されることから、 都は、先行して実施してきたこともあり、引き続き、精神障害者を含め、障害者が差別されることのないよう普及啓発を実施していきます。
<R6年度予算措置額>
○共生社会実現に向けた障害者理解促進事業 46,339千円
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部企画課
<回 答>
都の研修基本計画に基づき、障害を理由とする差別解消に向けた研修を実施している。
<令和6年度予算措置額>0千円
<所管部課名>総務局人権部人権施策推進課
5.ピアサポート普及促進について(福祉局)
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおいてもピアサポートの活用が謳われています。当会ではこれまで都内近郊の関係者から当事者会の設立や運営についての助言や支援活動に取り組んできました。また、令和4年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業 「地域における当事者活動等の実態調査」に委員として参画するなどして、同事業の協力を行ってきました。現行において、当事者会活動の課題のひとつは運営に関する支援や相談先の確保です。 ボランティアセンターなどの取り組みはあるものの、精神障害の関連のピアサポートの取り組みを公的にサポートする機関は不在です。ついては、東京都においてはピアサポートの普及促進をすすめるために、当事者会活動等に対する公的な中間支援を行ってください。その際、すでに当事者会活動を取り組む団体と協働もしくは委託するなどして、これまでの当事者会活動の経験的な知識が動員できるようにお願いいたします。
<回 答>
都は、令和4年度より、障害福祉サービス等における質の高いピアサポート活動の取組を支援すること を目的として、ピアサポーターやピアサポートの活用方法を理解した障害福祉サービス事業所等の管理者の養成を図っています。
また、都が実施する精神障害者地域移行体制整備支援事業では、精神障害者地域移行促進事業を6か所の相談支援事業所等に委託し、自治体や指定一般相談支援事業者等に対する地域移行地域定着に向けた専門的な指導・助言を行うとともに、地域生活に関する体制づくりを支援するなど、精神障害者の地域 移行地域定着を促進しております。事業の実施に当たっては、ピアサポーターの育成及びピアサポート 活動を活用することとしています。委託相談支援事業所等は、ピアサポーター及びピアサポーターにかかわる事業者に対し必要な学習や交流の機会を設け、区市町村に対し情報提供を行っています。また、ピアサポーターの活用を推進するため、関係機関と連携し体制の整備に取り組んでいます。
<R6年度予算措置額>
○東京都障害者ピアサポート研修事業 51,676千円
○精神障害者地域移行体制整備支援事業 103,728千円
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部地域生活支援課 精神保健医療課
6.精神障害のある人の災害対策について(福祉局)
首都直下地震等による東京の災害被害は甚大なものとなることが予想されます。当会ではこれまでに災害と精神障害に関する調査研究および提言活動を行っています。昨年度は、東日本大震災や熊本地震の被災経験者らへの質的研究を国立精神・神経医療研究センターと協働で行うなどしています。 災害対策のためには身近な場での啓発や具体的な対策の実施が不可欠です。東京都においては、女性・要配慮者等の視点を踏まえた、避難所管理運営指針の改訂や避難所運営体制整備の支援や区市町村が行う避難行動要支援者に対する個別避難計画作成等の取組みの支援を行っているところですが、精神障害のある人の対策はまだまだ不十分と言わざるを得ません。当事者参加の元、防災計画の推進を底上げしていただきますようお願いいたします。
<回 答>
令和3年の災害対策基本法改正により、避難行動要支援者の個別避難計画の作成が区市町村の努力義務となるなど要配慮者の避難支援等について強化が図られております。
都では、区市町村の取組を支援する立場から、要配慮者対策に取り組む区市町村を財政的に支援するとともに、毎年、区市町村の防災主管部署・福祉保健主管部署の担当者を対象として、「災害時要配慮者対策研修会」を開催し、個別避難計画作成等に係る先進的な取組や好事例を紹介し共有しております。
また、今年度は、区市町村の担当者向けに個別避難計画の作成 活用に係る手引きの作成を予定しており、引き続き区市町村における要配慮者対策の取組を支援してまいります。
<R6年度予算措置額>
○災害時要配慮者対策の推進 11,803千円
○地域福祉推進区市町村包括補助事業4,066,000千円(内数)
<所管局部課名>福祉局総務部総務課
7.当事者参画について(福祉局)
障害者権利条約批准以後、政策決定過程における当事者参画がますます加速されています。他方で、精神障害者の当事者団体の参画は東京都においてはまだまだ課題がある。たとえば、ハートシティ東京のホームページにおける精神障害者への配慮例として書かれている内容には「ゆっくり話すようにする」「表情と感情を一致させましょう。(含み笑いは本人が誤解しやすい。)」など精神障害者のニーズとして蓋然性のないものが散見されました。
これまでの精神障害者の参画については家族会がその代わりを担ってきたが、そもそも団体として期待される役割や規範は異なるものです。家族会の会議体参画は否定されるものではないですが、当事者参画についても推進が必要です。定足数の兼ね合いで従前の参加枠の整理が難しいとの考えも漏れ聞くところですが、運用規則変更をするなどして積極的に精神障害当事者の構成員が起用されるようにしてください。特に、「東京都障害者施策推進協議会」「東京都障害者団体連絡協議会」「東京都障害者差別解消支援地域協議会」といった会議体については精神障害の当事者団体の参画が確認されていない状況である。従前からお願いしているところですが、早期な対応のほどお願いいたします。
<回 答>
「東京都障害者施策推進協議会」では、東京都精神障害者団体連合会の精神障害当事者の方に専門委員としてご就任いただいています。
今後も、当協議会では、精神障害当事者の方々のご意見をお聞きしつつ、審議を行ってまいります。
<所管局部課名>福祉局障害者施策推進部企画課