【活動報告】障害者権利条約一般的意見8号に関する意見提出
精神障害当事者会ポルケは、2023年3 月 6 日~24 日までスイスのジュネーブで開催されていた障害者権利委員会第28回会期に際して募集されていた障害者権利条約11条に関する一般的意見8号についての意見書を提出しました。日韓精神障害者交流事業で訪韓中に障害者権利委員のキム・ミヨンさんから提出を提案いただいていたところでした。
11条は、危険な状況及び人道上の緊急事態を定めたもので、紛争や災害時についての事項を対象にしているものです。
第十一条 危険な状況及び人道上の緊急事態
締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。) に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。) において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる。
なお、一般的意見とは、締約国の選挙によって選ばれた委員で構成される条約機関が、多数の締約国報告書を審査してきた経験にもとづいて採択した正式な文書であり、国際人権法の発展の重要な要素を構成するものとされています。
これまで当会では災害×精神障害をテーマに学習活動や調査活動に取り組んでまいりました。その知見をもとに下記の通り意見提出を2023年2月に行いました。
ほかのNGOなどの意見は下記に掲載をされています。
3月 7 日火曜日と 3 月 8 日水曜日には一般討論が行われました。その報告を併せてご紹介します。
第11条「危険な状況および人道的緊急事態」に関する一般的意見への意見
一般社団法人精神障害当事者会ポルケは、日本の東京を拠点とする精神障害者により運営をされる障害者団体です。全国「精神病」者集団やDPI日本会議などのネットワーク組織に加盟しています。障害者権利条約の実施を掲げて、国内外での取り組みをしています。日本においては、2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけにして、2015年に仙台防災会議が行われました。防災の領域における障害の主流化が課題となっています。2016年に発足した私たちの団体は、福島や熊本の被災経験をした精神障害者の友好団体との学習会やインタビュー調査を行うなどして、精神障害のある人の被災経験を今後の防災対策に活かすための制度化に向けた取り組みをしています。昨年から、National Center of Neurology and Psychiatryと協働して、DIARYプロジェクト(Disability Inclusive Action and Disaster Risk Reduction surveY)を立ち上げ、研究の視点を包摂したより具体的で効果的な対策作りを行うべく取り組みを強化しています。昨年は、United Nations 15th Conference of States Parties to the CRPD Side Event 2022 Including Perspectives of Mental Well-being & Psychosocial Disabilities in Disaster Risk Reduction & Humanitarian Actionを共催団体として実施をしました。ほかには昨年は国連アジア太平洋経済社会委員会(UN ESCAP)主催のDIDRR: Disability Inclusive Disaster Risk Reductionをテーマとした会合に参加の機会を得ました。これらの活動を通じた知見より、以下の通り意見陳述をします。
1. 日本の災害に関する状況について
日本列島は、地震や風水害など自然災害に見舞われるリスクが世界的にも極めて高い地域といわれています。災害は、人々の生活や働く場等を奪い、そして時には人命を危険にさらします。日本政府は、1961年に災害対策基本法を制定し、それ以降大きな災害の被災経験を基にした重層的な施策づくりが行われています。法律に基づき、都道府県や市町村では防災計画というものがつくられています。東京都の地域防災計画では、「防災対策の検討過程等における女性の参画の推進、避難所生活等における要配慮者の視点等を踏まえた対応等を位置付けており、災害時における人権確保の取組を進めています」として、“人権”というキーワードが近年取り上げられるようになりました。それは、女性や障害者や高齢者などが「災害弱者」といわれていますが、より災害時に被害にあう状況が明らかになってきたからです。災害によってもたらされる最も深刻な被害は人命にかかわることです。
たとえば、2011年に発生した東日本大震災では、障害者の死亡率が2倍になることが同年9月NHKの報道で明らかになりました。また、初の宮城県より実施された「東日本大震災に伴う被害状況等について」の調査公表をもとにした日本障害フォーラムのレポートによると、宮城県沿岸部の大震災による死亡率は、総人口比で0.8%、障害者手帳所持者比で3.5%となっていることが明らかになっています。実に約4.3倍の死亡率ということになります。死亡率が高かった原因はいろいろといわれています。たとえば、聴覚障害により防災アナウンスが届かず津波の被害にあったケースがありました。平時から必要な対策や支援があれば助かった命があったかもしれません。緊急避難のアナウンスを音だけではなく、視覚情報等で補う方法がとられるところも増えているようです。また、福祉施設は、地域の反対運動や建築コスト軽減のために僻地や水害リスクが高いエリアにあることが多いことが知られています。構造的に施設で暮らす人はリスクを抱えているとも言えます。福島県の精神科病院では避難の失敗から100人規模の死者が発生しました。近年においては、2020年7月の熊本豪雨による河川の氾濫により、高齢者施設にいた80歳~99歳の入所者14人の命を奪われるといった痛ましい事案も発生しています。
2. 一般的意見に採用するべき事項
2-1 災害対策の基本的な位置づけ
災害対策は、発災前からの備えと定期的な避難訓練の実施が必要です。障害者がアクセスしにくい環境で行われる場合が多く、地域社会からの分断が課題となっています。また、精神障害に対する偏見や差別の問題から、防災の枠組みに包摂されにくい状況があります。平時からの障害者のアクセシビリティや脱施設化の取り組み、差別禁止の取り組みが総じて、防災対策の基盤整備に寄与することを強調するべきです。特に、脱施設化については新型コロナウィルスの影響に鑑みても改めて必要な取り組みです。日本のNGOの調査では精神科病院での市中感染が4倍以上にのぼるという統計発表がありました。脱施設化ガイドラインの実施が、11条の実施の観点からも注目をされるべきです。
2-2 平時のサポートの継続
また、25条に関連して医療ケアの安定的な供給も極めて大切なポイントです。精神障害者の多くは平時から服薬治療を受けています。過去大きな震災の際には、流通に問題が発生した影響で、常備薬が手に入らないという問題が報告されています。しかし、現状においては医療現場では大きな問題として取り扱われていません。非常時に備えた医療のインフォームドコンセントを高めることも重要です。
2-3 避難所の問題
障害を理由にした差別的取扱いをうけて、避難所を追い出された事案が報告されています。きわめて重大な人権侵害です。避難所でのアクセシビリティの問題やプライバシーの欠如、女性障害者への性被害の問題があります。また、調査などから明らかになったのは、避難生活における心身の負担を考慮して、自宅での避難を希望する障害者が一定数いることです。東京都の防災計画では、自宅避難を推奨するきらいもありますが、その際に避難者に障害があることで生活物資の支給に問題がおきないような仕組みが見えてきません。在宅避難は、都市型災害の防災、減災における要です。障害者が取り残されないような体制整備を求めることが重要です。
2-4 防災をテーマにした地域間連携の促進
都市型災害の一番大きな懸念事項は、避難施設での収容に限界があることです。一定の交通インフラが回復した後は、ほかのエリアで避難生活を送ることが選択肢となります。その際は、当該の地域と日頃から親しみのある関係づくりをすることで、安心して避難生活を送ることができます。そのような関係性を障害者団体のネットワークでつくれるような社会的サポートをつくることが必要です。エンパワーメントを後押しする取り組みが求められています。
3. 災害リスクに対する備えの好事例
上記のように、障害者は災害における被害のリスクが高いことが明らかになっています。SDGsの観点からも防災対策における障害のメインストリーム化は不可欠である。災害時の避難の支援の必要性が高い者を登録する制度をつくりました。また、障害者一人ひとりに対して避難をするための個別計画を作成する取り組みが行われています。平時の支援関係や連絡先を一元化するものです。私たちの団体の拠点である大田区では、水災害の備えに準じた障害者を対象にした講習会の実施が行われています。これらは、課題も残りますが問題好事例の取り組みです。
4. 発災後の障害者団体の取り組みの好事例
仙台や熊本では、地震発生後に速やかにして精神障害や発達障害の団体が、セルフケアの避難所を設置し、互いの生活を支える実践がおこなわれた。地域に包あ摂するコミュニティが、災害時に有機的に機能した好事例です。しかし、これについては行政からの支援がありませんでした。取り組み自体も地域社会で評価されていないことは残念です。
5. 障害者の参画を促進するための課題
仙台防災枠組みにおいて、政策・計画・基準の企画立案及び実施のために、これらのプロセスに障害者が参加すること、年齢やジェンダーのみならず障害によって分類されたデータを収集すること、障害等をめぐる技術革新・技術開発への投資をすること、災害への対応・復興再建・復旧アプローチにおける障害者のエンパワーメントの重要性が盛り込まれていますが、実施には課題が多く残っています。仙台防災枠組みに依拠した障害者団体の参画を一般的意見においては明記をすることが重要です。
防災対策の行政会議における障害者団体の参画は極めて遅れがちな状況にあります。防災の担当課において障害の取り扱いがまだまだ過小に評価されていることが原因です。障害分野の施策は、福祉や医療だけの問題ではありません。大きな行政組織のため、担当領域を超えた連携が難しいという問題があります。この問題は、決して災害対策の領域だけに限られませんが、実装の観点から各国に留意事項として示すことも重要です。