【活動報告】学術誌『精神医学』「特集 精神医療は何を目指すのか アウトカムとエンドポイント」に寄稿
精神医療はなにを目指すのかー。当会代表理事の山田悠平が、医学書院発行の学術誌『精神医学』Vol.67 No.7(2025年7月号)に寄稿しました。
本号の特集テーマは「精神医療は何を目指すのか──アウトカムとエンドポイント」。「当事者として期待する精神医療のアウトカム」と題して、精神障害当事者の視点からの論考を寄せました。精神医療のあり方を見つめ直すうえで、当事者の声がどのように位置づけられるか、また、それが実践にどう活かされるかを考える契機となれば幸いです。
▼精神医学 Vol.67 No.7 2025年 07月号(外部リンク)
【寄稿抄録】
本稿は、精神医療におけるアウトカムのあり方を、当事者の自己決定と尊厳の視点から再構築する必要性を論じるものである。当事者としての入院経験からの違和感を起点に、国連障害者権利条約の理念「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というスローガンを手がかりに、従来のパターナリズム的な構造を批判する。精神医療においては「治療が成功したか」ではなく、「本人の意思が尊重されたか」が真に問われるべきアウトカムであると提起する。さらに、定量的指標と定性的ナラティブの両方を用いた混合研究法の採用や当事者によるピアレビュー・ピア評価の導入などの指標の活用を通じた共同創造による評価モデルの重要性を示し、精神医療の質を問う視点として「手段の目的化」の意義にも触れる。当事者主体の枠組みによる精神医療の変革を掲げるアウトカムの設置と、新たなモノサシづくりの必要性を提案する。
特集にあたって
企画:福田正人(群馬大学名誉教授/本誌編集委員)
「病気や症状はなぜ治療するのか?」と,ある時から医学生教育でそう投げかけるようになった。医学生は病気や症状の治療を当然と思っているが,医療で何を目指すかは患者と医療者で一致しているとは限らないからである。──本特集の執筆を依頼するときに紹介した背景である。この問いに,精神疾患の当事者や他診療科の医師は,次のように答えてくださった。
「精神医療においては『治療が成功したか』ではなく,『本人の意思が尊重されたか』が真に問われるべきアウトカムである」(山田論文),「医療におけるアウトカムとエンドポイントは,単なる測定対象ではなく,価値観と社会性を含んだ概念である」(矢吹論文),「PRO(patient-reported outcome)の日常診療へ統合は,患者が自分の声を継続的に届ける仕組みを医療のなかに制度化する取り組みであり,まさに患者中心の医療の根幹をなすものである」(堀江論文)。
では,そうした取り組みは,どうすれば進められるだろう。
「『手段の目的化』は批判的に語られることが多いが,共同創造の本質は,異なる立場の人々が対話しながら新しい価値を生み出すことにある。今後の精神医療のアウトカムづくりの共同創造に大いに期待したい」(山田論文),「精神医療では,個人の生活に根ざした目標設定が必要であり,その測定方法も個別化されるべきである。患者と医療者がともに『何を目指すか』をすり合わせる過程こそが,アウトカムを定義する最も重要な営みである」(矢吹論文),「それぞれの治療のゴールを日常診療の中で模索する営みのなかで,PROは医療と生活,客観と主観の間に橋をかける実践である。その意味において,精神医学はまさにPROと最も親和性の高い領域の一つであると考える」(堀江論文)。
これらは,「精神医療の最終目的であるアウトカムはどうあるべきか?」「現在用いられているエンドポイントはそのアウトカムをどの程度反映できているか?」という本特集の趣旨に向けて,精神医療の専門職ではない方々から寄せられた本質的な期待である。その期待に応えて,精神医療のさまざまな分野におけるアウトカムとエンドポイントについてお考えをまとめていただくことができた。
難解なテーマと聞こえてしまうだろうか。しかしこのテーマは,「精神医療は何がどうなることを目指すのか?」「現在の精神医療についての指標はそれをどのくらい反映できているか?」という,臨床に密着した基本である。読者の方々にとって,本特集の多彩な論文が,精神医療の基本をあらためて考える契機となることを希望している。
特集 精神医療は何を目指すのか──アウトカムとエンドポイント
企画:福田 正人
特集にあたって
福田 正人
医療におけるアウトカムとエンドポイント
矢吹 拓
Patient-reported outcome(PRO)の日常診療への実装──がん診療での経験から
堀江 良樹
当事者として期待する精神医療のアウトカム
山田 悠平
精神医療のアウトカムとエンドポイント──当事者の願い,医療の視点
福田 正人
精神科薬物療法のアウトカムとエンドポイント
渡邉 博幸
心理社会的療法のアウトカムとエンドポイント──個人精神療法を含めた心理社会的なアプローチ
田中 裕記
精神科作業療法のアウトカムとエンドポイント
村井 千賀
ピアサポートのアウトカムとエンドポイント──「効果」を語りきれない
宮本 有紀・他
誰のためのアウトカムか──地域精神保健における共に考える研究のかたち
塩澤 拓亮
At risk mental stateにおける早期介入のアウトカムとエンドポイント
西山 志満子・
児童青年期精神医療のアウトカムとエンドポイント
亀岡 智美
高齢者に対する精神科医療におけるアウトカムとエンドポイント
數井 裕光
依存症治療のアウトカムとエンドポイント
松﨑 尊信
司法精神医学におけるアウトカムとエンドポイント
安藤 久美子
●総説
免疫-脳連関から見た自閉スペクトラム症の病態理解──IL-17Aによるミクログリア機能修飾の観点から
左中 彩恵・他