【活動報告】2019年台風19号から考えるこれからの防災・減災の在り方 調査報告・提言書

「ポルケフォーラム2021」で取り上げた報告書が、一部加筆を経て無事発行することができました。
関係者のご協力に感謝申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

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この冊子は、日本障害フォーラムを通じたマーシーリリーフ支援金および真如苑市民防災・減災活動公募助成を活用し制作いたしました。

情報提供かねて、第5章の今後の活動方針を抜粋にてご紹介いたします。


第5章 今後についての活動方針

(1)災害に関する政策・計画・基準の企画立案及び実施に障害当事者の参画を求める
国連世界防災会議「仙台防災枠組」(2015-2030)に則った当事者参画を進める必要があります。仙台防災枠組には、「必要としている人のすべてに対して、心理社会的なサポートとメンタルヘルスサービスを提供するための復旧スキームを強化する」(33o)との文言で精神保健・心理社会的支援が優先事項に含まれました。また、防災における障害者の包摂も初めて優先課題とされました。具体的には、ユニバーサルデザインの原則等に沿った「政策・計画・基準の企画立案及び実施」のために、これらのプロセスに障害者が参加すること、年齢やジェンダーのみならず障害によって分類されたデータを収集すること、障害等をめぐる技術革新・技術開発への投資をすること、災害への対応・復興再建・復旧アプローチにおける障害者のエンパワーメントの重要性が盛り込まれています。

精神障害当事者会ポルケが拠点とする東京都大田区では、現在今年度大田区地域防災計画の改定作業が進んでいます。防災安全対策特別委員会(2021年6月18日)では修正方針が示されました。その修正についての留意事項として「多様な視点を考慮した防災対策の推進」が示され、要配慮者対策(高齢者・障がい者・乳幼児)が項目として挙げられていますが、把握する限りでは障害者団体等へのヒアリングやアンケート調査などは行われていないようです。「多様な視点を考慮する在り方」に貢献できるよう、今からでも当事者の声を反映させることが必要です。もとより、本来であれば経過での途中聞き取りではなく、仙台防災枠組みにあるような「政策・計画・基準の企画立案及び実施」から当事者参画が進む必要があります。また、当事者参画にあたっては、これまで全般的に精神障害者の参画は遅れがちな状況があります。障害者団体からの推薦を設けること、多様な障害種別が考慮されること、障害のある人と家族の立場をわけた整理が必要であることを強調したいと思います。

他方で、災害対策に関する最も基本的な法律である災害対策基本法は、災害対策に関して、その策定、実施、監視、評価のいずれにおいても、障害者団体と緊密に協議し、障害者団体が積極的に関与することを求めておらず、法的に障害者団体が災害対策に直接参画する機会が保障されておりません。障害者権利条約の第1回締約国審査に向けて、日本障害フォーラムのパラレルレポートでは本件の取り上げがあります。今後、「仙台防災枠組」を援用しながら、国連障害者権利委員会からの有効な勧告を契機にして、当事者参画の実態把握の調査及び法制化を含め、様々な団体と連携をはかりながら、制度仕組みとしての解決を目指していきたいと思います。

(2)避難行動要支援者名簿についての課題提起
①認知不足の問題
今回のプロジェクトにおけるアンケート調査によると、避難行動要支援者名簿について「知っている」と答えた人はわずか約16%に限られました。避難行動要支援者名簿それ自体の認知がそこまで高くない現状が明らかになりました。各自利用の要否は別にして、認知不足の問題を問うていきたいと思います。

②精神障害のある人が名簿登録する際の基準化の必要性
一方で、避難行動要支援者名簿について知っている人からは、「メリットが感じにくい」「プライバシー配慮のことが気になる」「精神障害の場合、なにを基準化して申請の判断をすればよいかわからない」「(窓口で)とりあえず登録を進められたが、他の人に迷惑にならないか気が引ける」などといった声などが寄せられています。制度や運用ビジョンに即した説明や活用事例のイメージなどがあると私たちも登録の要否の判断がしやすくなります。手帳等級だけではない、わかりやすい基準化についてのポイントを挙げ提言していきたいと思います。

③情報管理の徹底、管理責任の明確化
そもそも、障害に関する事項は個人情報保護法でいうところの要配慮個人情報となり、より厳密な情報管理が求められます。しかし、町会を含めた幅広い関係機関での共有が可能となっていることから、情報管理についての管理がどこまで徹底されているか大きな疑念が生じています。

また、精神障害者の扱いについては、警察機関内で保安対策などの別の目的に利用されないか憂慮しています。なお、2019年台風19号の際には、避難行動要支援者名簿が福祉避難所運営では活用がなかったと承知しています。熊本の当事者団体からは、熊本地震の際は、障害者手帳に関する行政管理の名簿が機能したという事例が寄せられました。平成25年災害対策基本法改正以降、本人の同意を得ないで関係機関への名簿情報提供が可能となっています。本人不在の形でプライバシーが流布されることに大いに懸念します。現状をさらに精査し、慎重な扱いを求めていきたいと思います。

(3)福祉避難所についての課題提起
2019年の台風19号被害における大田区の避難所の利用者は12,102人であるのに、福祉避難所の利用は77人であることが、大田区防災安全対策特別委員会 令和元年11月25日の資料から明らかになりました。障害者白書によると障害者の数は人口のおよそ12パーセント程度ともされています。福祉避難所の利用が障害者の人口比からしてもあまりに少なかったことがわかります。

また、この間の調査では「福祉避難所を利用したくても利用できなかった」という声も寄せられています。また、防災啓発団体の関係者が特別支援学校で研修をした際にも知らない人が多かったとの声が寄せられています。認知不足が要因として考えられます。対象者のすみわけの問題から、情報公開が遅れがちな状況もあるようですが、福祉避難所の開設場所については日頃から基礎自治体のホームページで情報公開をするなどを求めていきます。

(4)在宅避難についての課題提起
①障害者が取り残されないような整備
調査などから明らかになったのは、避難生活における心身の負担を考慮して、自宅での避難を希望する人は一定数いることです。東京都の防災計画では、自宅避難を推奨するきらいもありますが、その際に避難者に障害があることで生活物資の支給に問題がおきないような仕組みが見えてきません。在宅避難は、都市型災害の防災、減災における要です。障害者が取り残されないような体制整備を求めていきます。

②家具転倒防止器具の設置補助制度の利用促進
阪神淡路大震災に代表されるように都市での地震被害に際しては、家屋の転倒防止が大きな効果を発揮することがわかっています。阪神淡路大震災の死亡数全体の約8割転倒家屋による圧死とも言われています。たとえば、大田区においては、一定所得以下の全障害者を対象にした家具転倒防止器具の設置補助制度があります。情報周知を図るとともに、公からの情報提供をさらに求めていきます。

(5)防災学習を通じた顔と顔の関係づくりを通じた障害理解の促進
 防災学習については、災害時のことを考えることでの心理的なハードルを感じる声や町会単位の避難訓練には参加しにくいといった声が寄せられました。敷居を下げる取り組みが必要です。料理や土のう袋レースなど楽しみごとを交えた防災ワークショップでは大田区協働支援施設大森こらぼ大森が主催したイベントは好事例として挙げることができます。

要配慮者向けのマイ・タイムライン講習会といった取り組みも重要です。またそのような普遍的な地域課題として防災をとりあげることで、顔と顔の関係をつくる機会にし、障害理解を地域からつくる副次的な効果も期待できます。行政、障害者団体、防災啓発団体などと連携をはかりながら取り組んでいきたいと思います。

(6)防災をテーマにした地域間連携の促進
 都市型災害の一番大きな懸念事項は、避難施設での収容に限界があることです。一定の交通インフラが回復した後は、東京を離れた避難生活を送ることが選択肢として有効になるのではとのアイデアが寄せられました。その際は、当該の地域と日頃から親しみのある関係づくりをすることで、いざという時も安心して避難できると思われます。まだまだ、構想の段階ですが、このようなアイデアの実現も含めて、精神障害当事者会ポルケでは、国内外の関係団体と協力をはかり、地域間連携の促進を図っていきたいと思います。

(7)災害時の服薬確保についての課題提起
 アンケート調査で精神障害特有の問題としてもっとも寄せられた課題感は、日頃の服薬が困難にならないかといった懸念でした。実際、東日本大震災における福島での事例などでは、流通困難が生じたことから、精神障害のある人の服薬の確保が困難となったという事例が寄せられていました。ポルケのメンバーでは、当事者の中ではかかりつけ医と相談をしている人ばかりではありません。数人にお問い合わせした限りですが、災害時の服薬確保に関連する指針のようなものはあまり聞いたことがないとのことでした。精神障害における治療の中心は薬物治療です。現行制度にある災害時薬事コーディネーターの制度運用などを注視しながら、災害時における精神科医療における服薬に関するあり方の提言づくりを関係機関と連携をはかりながら、進めていきたいと思います。

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