【活動報告】2023年度精神保健医療施策等について東京都への提言

2023年8月に東京都に下記の通り提言書を提出しました。行政や複数の都議会会派と懇談をしました。


1.医療機関への監視強化について

 先般、孝山会滝山病院において入院患者を日常的に虐待していたことが指摘されている深刻な不祥事が明らかになりました。精神科医療機関への信頼は私たちの暮らしを守るためとても大切なことです。この事件の再発防止の観点から、精神科病院での虐待や不適切な処遇の防止のために以下の点を行っていただきますようお願い申し上げます。

①東京都精神保健福祉審議会について

 国の通知によると、地方精神保健福祉審議会は精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、定期的に開催するのみならず、精神病院の不祥事があった場合には、積極的にこれを審議すること及び精神科病院に対する効果的な指導監督等のあり方を検討するとされています。つきましては、可及的速やかに東京都精神保健福祉審議会において審議する必要性があると考えます。実施にあたりましては、当事者団体及び法律家等で構成される第三者調査組織の設置及び調査の実施、再発防止に向けた効果的な指導監督のあり方、そして、入院患者の転院及び退院に向けた聞き取りの方策を審議事項に挙げてください。

②指導監督の強化について

 「精神科医療機関における虐待が疑われる事案に対する指導監督について(抄)(令和5年2月17日付精神・障害保健課事務連絡)」に鑑みて、必要な情報収集や実地指導等の適切な指導を強化のほどお願いします。特に、入院患者に対する虐待が強く疑われる緊急性が高い場合等については、予告期間なしに対象の精神科病院に対し実地指導を実施するなど、必要な措置を行うようにしてください。

③精神保健福祉法改正を踏まえた虐待防止の取り組み

 令和6年施行の精神保健福祉法改正に基づき、精神科病院での虐待に係る通報義務化、通報者保護の徹底、虐待防止研修の実施について、都内の精神科病院への通知をはかるなどしてください。運用状況についてはモニターを徹底するようお願い致します。また、再発防止の観点を考慮して虐待類型ごとの統計把握およびプライバシー配慮をおこなったうえでなるべく詳細に公表を行えるように、東京都としてあり方の検討を促進してください。

④入院者訪問支援事業について

 令和6年施行の精神保健福祉法改正に基づき、入院者訪問支援事業について、都道府県の任意事業であることは承知していますが、東京都として取り組むようにしてください。当該内容の研修実施にあたっては、同事業の実施の推進を行っている認定NPO法人大阪精神医療人権センターや全国「精神病」者集団などの関連団体から講師を招くなど、実践的な研修となるようお願い致します。また、訪問支援員の選任にあたっては、当会の構成員を含めて、ピアサポートの活用を積極的にしていただくようお願い致します。

2.精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築・推進について

 東京都においても精神障害にも対応した地域包括ケアシステム、いわゆる「にも包括」の構築および推進に係る取り組みが行われています。しかし、市区町村での取り組みについて、地域住民から可視化がしにくい状況や担当領域があまりに広範のことから取り組みの一致点が築きにくいことや担当所管の庶務の負担が過重となっていることなどの課題が散見されています。これらの「にも包括」の構築および推進についての課題を早期に解消するよう東京都と市区町村が一体となって取り組むようお願い致します。つきましては、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築支援事業広域アドバイザーの活用や協議の場の連絡協議会の開催などを行うようお願い致します。

3.移動支援事業(地域生活支援事業)について

 精神障害者の地域での安定した暮らしを送るためには、必要な福祉サービスを利用した生活スタイルの普及が必要です。そのひとつに移動支援(ガイドヘルパー)という制度があります。社会参加や余暇支援があることで、生活リズムの安定に寄与するなどの声があります。精神障害のある人へのガイドヘルプは、「東京都知的障害者移動支援従業者養成研修」の修了が資格要件のひとつとなっています。しかし、当該研修において精神障害の理解といった項目が規定されていません。これまでに活動拠点の大田区での従事者研修の講師に当会メンバーが参画する機会を得ましたが、精神障害についても研修スキームにしっかりと規定することが必要です。さらに、研修の枠組みにおいて障害当事者との対話の場を設けるなどのカリキュラム改定も必要だと考えます。養成研修のプログラムについては、東京都の専権事項となっています。区市町村での研修が精神障害者にも対応した実りあるものになるよう運用改定等必要な措置を図るようお願い致します。

4.精神障害の理解啓発の促進について

 精神障害についての根深い偏見や差別の問題の解消は、精神障害のある人の地域生活において不可欠です。精神疾患が五大疾病として扱われて久しいですが、疾病予防の取り組みがややもすると、現に精神障害のある人への偏見や差別の問題を助長しないか深刻に憂慮しています。当会はメンタルヘルスの尊重と権利や尊厳をまもるための理解啓発の両輪の必要性を訴えてきました。大田区地域力応援基金の助成制度を活用して、当事者が期待するアンチスティグマの考え方と実践例を冊子として発刊しております。なお、令和6年障害者差別解消法施行では、民間事業者への合理的配慮提供義務化などが行われます。都民への正しい障害理解がますますと求められます。つきましては、今後の東京都職員向けの研修等でご協力できますと幸いです。

5.ピアサポート普及促進について

 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおいてもピアサポートの活用が謳われています。当会ではこれまで都内近郊の関係者から当事者会の設立や運営についての助言や支援活動に取り組んできました。また、令和4年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業「地域における当事者活動等の実態調査」に委員として参画するなどして、同事業の協力を行ってきました。現行において、当事者会活動の課題は運営に関する支援や相談先の確保です。ボランティアセンターなどの取り組みはあるものの、精神障害の関連のピアサポートの取り組みを公的にサポートする機関は不在です。つきましては、東京都におかれましてはピアサポートの普及促進をすすめるために、当事者会活動等に対する公的な中間支援を行ってください。その際、すでに当事者会活動を取り組む団体と協働もしくは委託するなどして、これまでの当事者会活動の経験的な知識が動員できるようにお願い致します。

6.精神障害のある人の災害対策について

 首都直下地震等による東京の災害被害は甚大なもののとなることが予想されます。当会ではこれまでに災害と精神障害に関する調査研究および提言活動を行っています。昨年度は、東日本大震災や熊本地震の被災経験者らへの質的研究を国立精神・神経医療研究センターと協働で行うなどしています。災害対策のためには身近な場での啓発や具体的な対策の実施が不可欠です。東京都においては、女性・要配慮者等の視点を踏まえた、避難所管理運営指針の改訂やの避難所運営体制整備の支援や区市町村が行う避難行動要支援者に対する個別避難計画作成等の取組みの支援を行っているところですが、精神障害のある人の対策はまだまだ不十分と言わざるを得ません。当事者参加の元、防災計画の推進を底上げしていただきますようお願い致します。

7.当事者参画について

 障害者権利条約批准以後、政策決定過程における当事者参画がますます加速されています。他方で、精神障害者の当事者団体の参画は東京都においてはまだまだ課題があります。たとえば、ハートシティ東京のホームページにおける精神障害者への配慮例として書かれている内容には「ゆっくり話すようにする」「表情と感情を一致させましょう。(含み笑いは本人が誤解しやすい。)」など精神障害者のニーズとして蓋然性のないものが散見されました。
 これまでの精神障害者の参画については家族会がその代わりを担ってきましたが、そもそも団体として期待される役割や規範は異なるものです。家族会の会議体参画は否定されるものではないですが、当事者参画についても推進が必要です。定足数の兼ね合いで従前の参加枠の整理が難しいとの考えも漏れ聞くところですが、運用規則変更をするなどして積極的に精神障害当事者の構成員が起用されるようにしてください。特に、「東京都障害者施策推進協議会」「東京都障害者団体連絡協議会」「東京都障害者差別解消支援地域協議会」といった会議体については精神障害の当事者団体の参画が確認されていない状況です。従前からお願いしているところですが、早期対応のほどお願い致します。

 

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